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□ベイビー★パニック
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……どうしよう、





事の発端は3日前に遡る。


ここずっと体調が良くなかったおれは動きたいのを皆に止められて、自室のベッドで横になっていた。



暇だ。





地方へ遠征中のギーゼラが今日帰ってくるというのでそれを待っていた。

夕方と行っていたからもうそろそろの筈、なんだけど…


コンコン



『失礼致します、陛下』
『あ、お帰りギーゼラ。待ってたんだ』

急ぎ足で入って来たギーゼラを見て笑った。
心配性の皆の事だ。着くなりおれの所へ行けと捲し立てたんだろう。


『遅くなってしまい申し訳ありませんでした。連絡を受けこれでも駆けて来たのですが…』
『いや、いいよ。そんなに大した事じゃないと思うんだ。』


みんな大袈裟でさ―



笑うおれの側へやってきて…ギーゼラの診察が始まった。











例えばそれは『食べ過ぎ』だったり、


最近おれなりに執務を詰められていた所為で体調を崩した…とか、

誰かさんみたいにいつの間にか腹を出して寝ててお腹を壊した……とか。


そんなちょっと情けなくて笑われちゃうような答えをおれは考えてたんだ。

『やっぱりな―』って後で軽く反省して、早く治して、長くても二、三日後には完全復活できる様な。



そんな展開を………








『…陛下、あの…申し訳ないのですが少々お待ち下さい』


そういって席を立ったギーゼラは部屋の隅にいたメイドさん達に何かを告げていた。
それだけして戻ってくる頃には皆どこかへ行ってしまう。
……何だ?


『人払いをしてきました』

開口一番のギーゼラの台詞だった。


『人払い?どうして』
『陛下に置かれましては…、いえこの状態になった方にはやはり「個人的な秘密」と言うものが生まれますから…』



個人的な秘密………つまりプライバシーか。


『そんなの気にしなくていいのに』
『いえ、大切な事ですので…』



そう言って俯くギーゼラ。
…なんだろうこの歯切れの悪さは、おれまで不安になってきた。



『陛下、』
『っは、はい!』

ぁ、つい緊張してきて上擦った。
でも、おれの慌てぶりに気付いて小さく詫びたギーゼラは『悪い事ではありませんから大丈夫ですよ』とおれを落ち着かせてくれた。






例えばそれは持病の再発だったり…

体の他の病気がこっちに影響してたり……


或いは嫌な話便通の問題だったり…



確かに悪い事じゃなかった。

でもそういったおれの想像を悉く裏切ったその答えは、おれの意表を綺麗に突いて怒涛の如く現れた。




もう一度念入りに診察をしたギーゼラは、興奮を抑える様にしてこう言ったんだ。





『おめでとうございます陛下』

『陛下は現在…――』













* * * * * *



「ぬぉぉお―――――!!」


我慢も出来ず人気も気にせず頭を掻き毟りながら本能のままに思い切り唸った。
うん、ここんとこずっとそうだからいい加減変な噂がたってる事だろう。
陛下御乱心、とか。

「もういっそそれでいいし!つかおれにどうしろっていうんだよ、」


お腹のそれらしい所に手を当てた。
こんな、こんな……

「どうしろと言う前にお前が一体どうしたんだ?」
「ぎぁあ―!!ヴォ、ヴォルフラム!!!」


今一番会いたくない人物がおれの真後ろで仁王立ちだった。
まずい、これはかなりマズイ!!

「皆噂しているぞ。ユーリが回復してから調子が可笑しいと」
「そ、そんな事ねーよ!おれもう滅茶苦茶元気だし!」
「そうか?」

やっぱり城全体におれの慌て振りが伝わってるみたいだ。
執務と夕食以外なるべく人との接触を避けては来たけど、こうしたちょっとした所でも見てる人には見られるらしい…
おれのうんざりした顔をどう取ったのか、珍しく心配そうな顔をしたヴォルフラムの顔が突然近づく。
コツンと小さな音を立てておれの額とヴォルフラムのがぶつかった。

「…熱は、ないな」
「っ、〜〜!!」

わ、ゃ…止めっ…!

「しかしまだ体調が戻りきってはいないのではないか?」
「そ!そんな事ないさ、おれはもう元気だから」

まだ不自然に近いこの距離を離そうと後ずさるが何故かヴォルフラムは付いてくる。


「だが顔が赤いぞ無理をしているんじゃ…」
「ぅっ………、」


仕舞には腰に腕を回されておれは逃げ場をなくしていた。
この流れはまずい。意外と鋭いコイツの事だ、下手をしたらそろそろ…


「ユーリ、気のせいか最近ぼくを避けてはいないか?」
「違っ!!っっそ、そんなことないって」


あ、しまったおれのバカ。これじゃあはい。って答えてるようなもんじゃねーか。

「ユーリ、本当はぼくに何か言いたい事があるんじゃ…「ぁ!グウェンダル…」」

堪えられなくてヴォルフラムが言い切る前に言葉を遮った。
案の定後ろを勢いよく振り向いたヴォルフラムに捕まる前におれは脱兎の如く走り出す。


あっ、!こらユーリ!!!!


そんな声が聞こえた時にはもうおれは廊下の角を曲がるトコまで走れていた。
人って本気になったらどこまでも走れるのかもしれない……







* * * * *




「むり、ムリムリムリムリ、絶対無理ッ!!!」



閉じ篭った自室も広くて落ち着かないし、結局飛び込んだのはベッドの中だ。
グチャグチャな頭でもそれだけはわかる。無理だ。

(言える訳ねーだろ!!ましてやおれは男だぞ!?)


この国の一体何パーセントがこれに該当するというのか。限りなく珍しい事ってギーゼラが言ってた。
それでもって、彼女はこう断定したんだ……




『おめでとう御座います陛下』
『え、何が?悪い事じゃないの?』
『とんでもありません。それどころか陛下は現在御懐妊しておいでです』



『……………』
『……………』
『…………、』
『……………』


『ご、ごめん…え、ギーゼラおれなんか上手く聞き取れなかったみたいだ。いい今なんて言ったかな、』



き、聞き違いだよな?



『えっと、ですから…その、陛下の御腹には確かに新たな命が授かって居ります、と』


え、……はい?


『大変珍しい事ではありますが、可能性がない訳でもありません。
 真に愛しあった者同士の場合、稀にこうした珍事が起きる事も……』


そう言ったきりギーゼラは自分の事みたいに恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。



え、ええと…えとえと待てまて。
ゴカイニン何だそれ。
ゴカイニン、ご解任?誰がやめるんだおれか?何を、魔王を?や、それは違うだろ多分まだ今のおれには全くおめでたくないしな。
ごかいにん、ご会認?一体何が認められるんだ?誤解人っておれは迷惑な特殊能力を身に付けた、とか。
わーなんかグウェンとヴォルフの眉間に無くなら無い位の皺ができちゃいそうだな。
つかどっちかってーと、最強で最凶の誤解人はヴォルフだろ!?人の事へなちょこ、尻軽、浮気者って……!


『陛下、大丈夫ですか?戻ってきてください!お分かりですかー?御懐妊ですよ、ゴーカーイーニーンー』

ああ、ギーゼラ軍曹と嘆き悲しみ叫ばれる君がおれの為にそんな一字一句区切って諭してくれなくても……



えー、なんだ、御懐妊………?
あー、つまり妊娠の事か。
そっか、おれ今妊娠しておれの腹の中には今まさに赤ちゃんが………………………






『陛下。おめでとう御座います。今日から陛下は妊夫です』










『に、妊夫だってーーーーーっ!!』
「陛下どうか御気をしっかりッ!!』






何も、親子揃っておんなじこと言ってくれなくてもいいのに。
ああ、こうしてどうしてそんなことに。


おれ、渋谷有利に子供が出来ました。

……て、まじかよ。








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